ミャンマー駐在体験談

ミャンマー政変後の状況を一人の日本人駐在員の視点で書くブログ

政府による取り締まり強化

 前回のブログで、市民のCDMに対し国軍政府が取り締まり強化と情報統制で対抗していることを書いた。政府は引き続き、夜間(1:00am-9:00am)のインターネット接続遮断とSNSの接続遮断をしているが、反政府運動やCDMを呼びかける市民によるフェイスブックツィッターの発信は止まらず、抗議デモも収まらない。

 そこで、国軍政府が打ってきた手は、取り締まりの更なる強化だ。25日には、ヤンゴン中央駅付近等で、国軍政府が雇ったとされる不審者が刃物や棒等を使用し一般市民を複数負傷させたと報道された。

写真の不審者は、イヤホンを通じて、国軍政府から指示を受けているようだ↓↓↓

警察による威嚇射撃も確認されている。

また、ヤンゴン市タムウェ地区においては夜間に当局が動員され、発砲を含む措置をとり複数名逮捕した旨も報道されている。

26日も、ヤンゴン市内及び各地方で集会やデモが引き続き行われヤンゴン市内では、大規模な抗議デモが行われていたレーダン地区で、治安部隊が発砲を含む措置をとりました。

サンチャウン地区のミニゴン交差点付近では複数名を逮捕したとの情報があった。

日本人ジャーナリストも一時拘束された。

 拘束された日本人ジャーナリストについては、日本大使館の働きかけで解放されたものと想像する。後日、拘束されたジャーナリストの北角裕樹さんから、何らかの発表をすると思われますので、後報を待つこととしよう。

 日本政府も手をこまねいているわけではなく、在ミャンマー日本大使館は、流血の事態を避けるよう、現在のミャンマー政府に求めているようだ。

 しかし、事態は一向に改善や解決の兆しを見せず、昼夜ともに治安上の懸念が高まっている。

 

情報統制の強化

 ゼネストから一夜明けた2月23日は、デモ隊の活動はあまりなく静かな一日だった。それでもCDMは引き続き実行されており、銀行は軒並み閉店し、政府機関も閉ざされている。税関は一部稼働していたようだが、銀行が開いておらず輸入関税の納付ができないため、輸入通関ができない状況が継続している。

 このような状況で、打開策を示せない国軍政府は、取り締まりと情報統制を強化している。取り締まり強化は、ゼネストが行われた22日は各地で逮捕者が相次ぎ、首都ネピドーでは200人を超える市民が逮捕されたと言われている。

 問題なのは、政府による情報統制だ。毎日午前1時から午前9時の8時間は、インターネット接続が遮断される。スマートフォンを使用したデザリングも不可能で、インターネットへの接続が全くできない。そのため、夜間にアップデートするような企業のシステムには大きな影響を及ぼす。政府は、夜間のインターネット遮断の理由を明確に説明していない。さらに、FacebookツィッターといったSNSは、全日遮断されている。こちらはVPNを使用すると使用可能なので、昼間は使用することが可能だ。SNS遮断の目的は、抗議デモ活動の縮小だと思われるが、成功していない。

 さらに今日は、残念なニュースが入ってきた。ミャンマーの英字新聞Myanmar Timesが3か月間休業するという。↓↓↓

 国軍政府から、「クーデター」を「権限移譲」などの言葉に置き換えるよう、報道の表現に関して指示があったようだ。Myanmar Timesの休業は、こうした表現の自由を守れないことが原因だ。ビルマ語のわからない外国人にとっては、重要な情報源のMyanmar Timesが休業というのは、大きなダメージだ。

 今の時代、いくら情報統制をしても、簡単に世界に発信できる。そういった行為を権力で封じ込めようとしても、おそらく抗議デモは収まらないだろう。次に国軍政府が打ち出す打開策に注目したい。

「22222」民主化運動

 昨日2月22日に、ミャンマーでは国軍クーデターに対する大規模なゼネストがあった。ゼネスト翌日の今日は、平常に戻り、私の勤めている工場も操業を再開した。

 2月22日のゼネストは、日付が2021年2月22日で、2が5つ並ぶ日なので、通称「22222」民主化運動と呼ばれる。昨日のデモは、今までで一番大きな規模で、ほとんど全ての企業が休業し、ミャンマー全土で数百万人が参加したと言われている。ヤンゴンでは、スーパーマーケット、飲食店も閉鎖し、国民全体がデモに参加したような状況だった。

  ゼネストを見ると、人数の規模もさることながら、ヤンゴンマンダレー、ネピドーといった主要都市に加え、パセイン、タウンジー、バゴー、ダウェイ等、ほとんどの地方都市で抗議デモが行われ、老若男女、地域を問わず、ほとんどのミャンマー国民が、軍政への反対と、アウンサンスーチーの釈放を求めていることが一目瞭然となった。インターネットが発達し、SNSで情報発信ができる現在は、この様子が世界中に知れわたり、ミャンマー国民が何を求めているのか、全世界に伝わったと思う。

 これまでに、3人の尊い命が警察による発砲で奪われていたので、22日のゼネストで、警察と市民が衝突するのではないかと大変心配していたが、それは杞憂に終わった。抗議デモ参加者から逮捕者が出ているので、国軍政府の圧政が続いていることに変わりはない。

 リーダーがいないのに、この規模の抗議デモを、まるで示し合わせたかのように自然に人が、特定の場所、特定の時間に集まり、混乱もなく、暴力・暴動もなく、一丸となって行われている様子を見ると、政府などなくても、国民一人一人が行動することで、ミャンマーという国は運営できるのではないかと思った。それくらい整然とした抗議デモだった。きちんとした政治体制が敷かれ、ミャンマー国民の力を結集したら、とんでもないほどミャンマーは発展するのではないだろうか。

 CDMは、功を奏し、公務員・銀行員が職場放棄をしているため、銀行が閉鎖され、輸入通関ができない状況で、全く経済活動が回っていない。私のような企業経営者は、とてもやり切れない状況だ。しかし、このように国民が一丸となって、民主政を取り戻そうとするミャンマー国民の運動を目の当たりにすると、感嘆すると同時に、心から応援する気持ちにさせられた。

 このような国民の抗議活動に対し、国軍は驚くほど何もできていない。国軍は報道を通じて、公務員はCDMへの参加をやめて職場に復帰するよう毎日繰り返し発表している。また外国政府に対しては内政干渉をするなという発表を行ったが、それだけだ。全く解決の糸口が見つけられない。

 CDMの今後の推移、経済活動、国民生活への影響等先が見えないが、引き続き安全第一に行動し、いつターニングポイントが来るのか見守りたい。

警察による取り締まりの激化

 2月20日は、警察による実弾の発砲が相次いだ一日だった。マンダレーでは昼間に銃撃があり2名が死亡し、数名のけが人がいる模様。ヤンゴンのシュエピターでは、夜間自警パトロール中の市民が発砲され、1名が死亡するなど、警察による実力行使が本格化している。

 シュエピターでの発砲事件、センシティブな画像を含みます↓↓↓

https://twitter.com/kimtae_moon/status/1363179370953728008?s=20

 私の勤める会社は、ヤンゴンのシュエピターにある。シュエピター工業団地の殆どの工場が2月22日月曜日は操業を停止するという連絡が来たため、明日22日は当社も操業を停止することにした。その後、多くの人と話をしていると、工場の操業停止は、銃撃事件というよりも、2月22日に予想される全国的なストライキゼネスト)が要因だということがわかった。工場だけでなく、スーパーマーケットなど、ほとんどのビジネスは営業を停止し、ゼネストに入る予定だ。

 2月22日のような、日にちが222とゾロ目の日には、大規模なデモが実施されるとされている。実際に1988年8月8日には、多数の学生や仏教僧、公務員、一般市民が参加したゼネストが行われた。人々は民主主義への移行と、軍政支配の終結を求めていた。この大規模な抗議に対して政府は、軍隊にデモ隊を弾圧するように命じた。兵士は非暴力のデモ隊に発砲し、数百人の死傷者を出した事件だった。この事件を含む一連の民主化運動は、通称"8888民主化運動"と呼ばれている。その事件後、反政府運動が激化する中で、アウンサンスーチーが、ヤンゴンの「シュエダゴン・パゴダ」前で演説をした。その後彼女は、1989年に自宅に軟禁され、1991年にノーベル平和賞を受賞する。軟禁されていた彼女は、2012年にようやくノーベル賞授賞式に参列した。8888は、彼女が民主化運動の象徴となるきっかけを作った事件だ。

シュエダゴン・パゴダ↓↓↓

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アウンサンスーチー、2012年ノーベル賞授賞式にて↓↓↓

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 二度と、8888のような惨劇を繰り返してはならない。双方が冷静に行動することを願うばかりだ。

非暴力・不服従を貫く市民による抗議デモ

  1.  今週末も、ヤンゴン市内及びミャンマー各地で、アウンサン・スーチー女史の釈放と、民主化を求める抗議デモが行われている。何万人という人が集まって、デモ行進が毎日のように行われているが、明確な指導者が存在しないにもかかわらず、市民が自然と集まりデモを行っている。アウンサン・スーチー女史への支持の高さが、この行動だけでも十分にうかがい知れる。

アウンサン・スーチーの解放を求めるデモ↓↓↓

ヤンゴンダウンタウンのデモ行進の様子↓↓↓

 さらにこの抗議デモが凄いのは、警察から、ゴム弾やパチンコによる攻撃があっても、非暴力を貫いていることだ。アウンサン・スーチーは軟禁されているので、デモ隊への指示などできないのに、デモ隊は、まるで非暴力民主化運動の指導者アウンサン・スーチーの指示を受けたかのように、非暴力を貫いて民主化運動をしている。

警察の「パチンコ」による攻撃↓↓↓

警察により「投石」されたケース↓↓↓

警察や軍による攻撃の数々↓↓↓

 この抗議活動に多くの市民が賛同し、サポートをしている。下の写真のように市民がボランティアで、暑い中抗議活動をするデモ隊に、スイカや水を配っている様子が街の至る所で見られる。

 また、アウンサン・スーチーは、マハトマ・ガンディーの非暴力・不服従運動の影響を受けていたと言われている。抗議デモ行進は、「非暴力」を貫いているし、CDMと呼ばれる不服従運動によって、公務員や銀行員は職場を放棄し、国軍政府に対して「不服従」の姿勢を見せ、金融機関・税関・病院・政府機関などあらゆる業務を止めて抵抗している。指導者がいないにもかかわらず、このように、非暴力・不服従の意思を継承し、統制の取れた行動をしているミャンマーの市民の方々に、私は感嘆しています。

 ここで、これまでデモ抑制に向けて、国軍政府が行った対応を振り返ってみます。

  1. 夜間外出禁止令と5人以上の集会の禁止令→抗議デモを抑えられず。
  2. 夜間のインターネット遮断とSNS接続遮断。中国人技術者の協力でファイアウォールを設置したと言われている→抗議デモを抑えられず。
  3. 23,000人を超える受刑者の釈放し、放火などの事件が多発。→社会に混乱を巻き起こすと言われているが、市民は自ら夜警をするなどして警戒行動をとっている。

 このように、国軍政府が実行した規制や情報統制、恩赦による受刑者の釈放では、全く抗議活動を抑えられていない。そんな状況下、首都ネピドーでは、警察の銃撃で19歳の少女が死亡し、マンダレーでも、20日少年が警察の銃撃で死亡するなど、市民の死傷者が発生している。あきらかに警察の取り締まりがエスカレートしている。おそらく「国軍政府はCDMを抑える解決策を見つけられていない」と、私は見ている。こうなってくると怖いのは、手段のなくなった国軍政府が締め付けをさらに強化することだ。今は、市民と軍・警察の間に大規模衝突が起こらないことを祈るのみだ。

CDMの企業活動への影響

 前回のブログに記載したように、日系企業の工場が多くあるティラワ経済特区前でも、2月17日から連日、デモ隊がゲート前に集結するようになった。経済特区の管理事務所は、労働者の安全を考慮し、デモ隊の経済特区内への侵入を防ぐ目的で、18日朝、全てのゲートを封鎖した。そのため、特区内の工場の多くが操業をストップした。デモ隊は、経済特区内にある税関の機能を止めることを目的としているようだが、私企業の工場も操業を止めざるを得ない状況に陥った。 

ティラワ経済特区前の様子↓↓↓

 CDMは、病院関係者の職場ボイコットから始まったが、銀行、政府機関へと広がりを見せ、経済活動に多大な影響を与えている。CDMは市民運動なので、この運動の戦略を立てたリーダーの存在はわからないが、意図的に銀行と税関を止めて、ミャンマーに経済的打撃を与えたのだとしたら、CDMの戦略は的を得ている。ヤンゴンには、ヤンゴン税関とティラワ税関の2つの税関がある。ヤンゴン税関前にはバリケードが設置され、中に入ることができない状態となっていて、通関業務は行えなくなった。ティラワ税関は、上記の通り、ティラワ経済特区のゲート前でデモ行進することで、ティラワ税関を機能不全に陥らせた。このような税関の機能停止により、輸出入通関ができず、ヤンゴンでは貿易が一切できない状態になった。

 銀行の機能停止は、さらに企業活動へ多大な影響を与えている。銀行が機能しなければ、給与支払い、仕入れ、国内・国外送金、外貨両替ができず、企業活動が全く進まない。借金をしようにも、金融機関が閉じているため、借金もできず、企業は手持ちの現金以外に、何もすることができない状態だ。当然、2月末の給与支払いができないという企業が現れている。

 このような状況下で、シンガポール外相が、「一般市民に経済的な影響が出てくる広範囲の経済制裁は望まない」と発言したことから、CDMを進める市民グループからタイガービール等シンガポール製品を対象としたボイコットシンガポール運動が広がっている。こういう発言は絶対にしてはならないと肝に銘じた。

シンガポール製品のボイコット運動↓↓↓

 また、僧侶もデモ行進に参加している。ミャンマーは国民の9割が仏教徒と言われており、僧侶がアウンサン・スーチー女史の解放を訴え、軍事政権を批判していることは、国民への影響も大きい。

デモ行進する僧侶↓↓↓

  このような市民の動きに対して、国軍政府は対抗策を何も示せていない。おそらく国軍政府は、ここまで軍事政権に対する反対運動が大きくなると想定していなかったのだろう。国民からの抗議だけでなく、クーデターに対する国際批判は高く、アメリカ政府は、軍のトップを含む幹部や、軍と関係が深い企業への制裁を発表した。アメリカのこの制裁だけなら、国軍政府のダメージはそれほど大きくなかっただろう。それよりも、CDMが実行している、銀行・税関機能の停止は、経済活動をマヒさせるので、国軍政府へのダメージが大きい。経済活動が止まることは、市民生活も苦しくなるので、国民へのダメージも大きい。CDMは、アメリカなどの国際社会が科した制裁よりも厳しい経済制裁を、ミャンマー国民自らがミャンマー政府に対して科しているようなものだ。ミャンマー国民と国軍政府の、どちらが、いつまで、この状況を耐えられるかの、我慢比べのような状態になりつつある。

 

NHKクローズアップ現代で、抗議デモについて放映されました。↓↓↓

www.nhk.or.jp

CDM(市民不服従運動)の影響拡大

 ミャンマーでは、日に日にデモ抗議活動がエスカレートしている。公務員・銀行員など幅広い業種の市民が職場放棄をして、国軍のクーデターに抗議するCDM(市民不服従運動)を展開しているためだ。

 2月16日、ヤンゴンでは、中央銀行の前の道路に若者が座り込み、CDMへの参加を呼びかけ、職員に職場放棄をさせて、中央銀行の機能をマヒさせようとしている。中央銀行は、通貨発行、金融政策、外貨取引に重要な業務を担っているため、中央銀行が機能不全に陥れば、民間銀行も全く機能しなくなる。民間銀行でも多くの銀行員がCDMに参加し、主要銀行は軒並み閉店し、機能していない。銀行の機能不全は、全てのビジネスに影響し、販売、購買、給与支払い、貿易が、一切できない状況になっている。

  銀行員だけでなく、公務員の多くもCDMに参加し職場放棄をしている。ミャンマー南東部のモーラミャインや、ヤンゴン環状線で、鉄道職員が線路に座り込み、列車の運行を妨害している。

  税関の前に、デモ隊が集合し、業務を継続しようとする者に、CDMへの参加を呼びかけている。そのため、税関も業務を遂行することが難しく、輸出入通関がほとんどできない状況となっている。

 2月17日の朝は、ヤンゴンで大渋滞が発生した。CDMへ参加する市民が、路上で故意に車のエンジンを止め、通勤車両の通行を妨害し、職場放棄を促しているためだ。そのため、17日は当社の工場長も出勤できなかった。

 また、日系企業の工場が多くあるティラワ経済特区前でも、デモ隊がCDM参加を促すシュプレヒコール上げたため、事態を重く見た多くの企業が、2月17日は午前中で操業をストップした。このように、CDMは製造業にまで影響を及ぼし始めた。

 病院の医師や看護婦のボイコットから始まったCDMだが、今や多くの業種に広がり、社会・経済に混乱を来たし始めた。

 これに対し、2月16日に記者会見を行った国軍政府の報道官は、公務員によるCDMは国家への忠誠を誓うという憲法に違反しており、扇動者は法律で厳しく罰せられるなど法律に従って対応していると説明した。また、CDMなどの事態収拾に2週間は待てないとのコメントもあった。国軍政府は、CDMの拡大で社会や経済が混乱する事態を強く恐れているので、今後2週間でどのような対応策を打って出るのか、事態を見守りたい。

2月17日のヤンゴンダウンタウンの様子↓↓↓