ミャンマー駐在体験談

ミャンマー政変後の状況を一人の日本人駐在員の視点で書くブログ

アウンサン・スーチー女史 拘束(初日午前)

 2021年2月1日月曜日、スマホのけたたましいアラームを止めて、目を覚ました。時計は5:30を指していた。いつも私の起きる時間だ。いつものように顔を洗い、歯を磨き、コーヒーを沸かし、テレビをつけた。いつも見ているテレビ番組はNHKあさイチだ。ミャンマーの衛星放送では、NHKワールドプレミアムが見れるので、テレビと言えばNHKを見ている。平日の朝、放映されているのは「あさイチ」だ。博多華丸・大吉と近江アナのトークに癒され、芸能人のトークや、謎解きゲーム、料理コーナーなどをみて、「日本は平和だなぁ」と感じながら、毎朝視聴している。その日は、なんだか胸騒ぎがし、テレビをつけながら、タブレットもいじっていた。なんとはなし、ツイッターを見たりしながら、テレビを見ていた。コーヒーを飲みながらタブレットを見ていると、突然「アウンサン・スーチー国家最高顧問を、軍が拘束」のニュースが流れた。自分の目を疑った。ちょうど妻も目を覚まし、リビングルームにやってきた。

「おはよう。アウンサン・スーチーが、拘束されたらしいよ」というと、

「それ、大ごとでしょ!!」と言われ、我に返った。

「そうだ、マネージャーたちに電話をしなければ」と思い立ち、携帯電話を手に取ると、4Gのマークも、アンテナのマークも消えていた。試しに電話をかけてみるが一切つながらない。ふとテレビを見ると、真っ黒な画面になっていた。

「おいおい、どうなっているんだよ」と独りごちた。

 すると、営業マネージャーからViber*1で電話がかかってきた。

「社長、クーデターです。今日は家にいてください。携帯電話ネットワークとTVネットワークは、軍政府が抑えているようです。私は家のWifiが使えるから、Viverで連絡しましたが、家にWifiのない人たちには連絡がつきません」

「ありがとう。営業部員には、連絡できる限りの人に連絡して、自宅待機するように指示してくれるか。それと毎朝9時のWEB会議はいつも通りにやろう」と依頼して、電話を切った。

 工場長も、製造マネージャーも、人事マネージャーもViberが繋がらない。経理マネージャーとViberが繋がったので、自宅待機と9時にWEB会議をする旨だけ伝え電話を切った。

 工場はもう稼働し始めているのに、工場長も人事マネージャーにも連絡つかないから、自分が工場に行って稼働を止めさせるのいいか、そのまま放っておくのがいいか逡巡したが、自分では答えが出せず、本社の上司に相談しようと、Face Timeで連絡を入れた。上司の指示は、工場はそのまま稼働して、他の部門は自宅待機ということになった。私のような外国人が外に出かけて工場に行くのは却って危険だというのが、上司の判断だった。家のWifiが繋がっていたので、EメールやSNSが使用できて、何とか外部と連絡が取れたのは幸いだ。

 運転手が迎えに来ているのを思い出し、アパートの1階に降りて、車のキーを渡し、今日はこのままアパートの駐車場で17時まで待機するように指示をした。

 9時になったが、毎朝実施しているWEB会議が始まらない。さきほど連絡の取れた経理・営業マネージャーにViberで音声通話を試みたが、今度は繋がらない。仕方がないので、社外の人と連絡を取って情報収集をしようと思い立ち、日本人駐在員の知り合いにLineで連絡を取った。彼らも、工場が稼働しているところは稼働させ、従業員の出勤は、本人の判断に任せるという姿勢のようで、ひとまず様子見ということだった。

 運転手を1日待たせておくのは悪いなと思い、缶コーヒーを差し入れに駐車場に降りていった。

 私が缶コーヒーを渡すと運転手が「すみません。今日は帰ってもいいでしょうか。身重の妻を一人家に残しておくのは心配で」というので、今日はどこにも外出しないし、工場に行くこともないだろうと判断し、運転手を帰した。

 

*1:Viberとは、Lineのように、メッセージ、音声通話が可能なSNSサービス。楽天グループが運営。ミャンマーViberの利用率が高い