ミャンマー駐在体験談

ミャンマー政変後の状況を一人の日本人駐在員の視点で書くブログ

嘘と偽り

最近は毎日のように軍による無抵抗な市民への攻撃、暴行、略奪、不当逮捕というニュースを聞くことに慣れてきてしまい、何が起きても驚かなくなってしまった。しかし、4月1日に発生したヤンゴンの大規模商業施設2軒の火災は、何かスッキリしない、心に引っかかるものがあった。2件の火災は4月1日未明に発生し、放火事件だと見られている。放火にあった2件の商業施設は、国軍政府が保有している物件というところが不思議だ。国軍政府保有物件への放火犯が、抗議デモをする市民だったとしたら、動機があるので理解できる。ただし火災が発生したのは深夜で、市民は夜間外出禁止令(20時~5時)により、外出することができない。もし外出していたら、警察・軍によって射殺されてしまう。そのような危険を冒して、軍政府所有の商業施設を放火するという愚行を誰が冒すのだろうか。夜間に放火して逮捕・射殺される危険と、国軍に与えるダメージを天秤にかけたら、そのような危険を市民が冒すとは到底考えられない。どうやら、国軍による自作自演の事件というのが真相のようだ。市民が放火した事件と国内外にアピールするために、国軍自らが保有する商業施設に火を放ったようだ。その日はちょうどCNNのリポーターが取材にミャンマーに訪問していた時でもある。国軍は武力で市民を制圧していることを正当化するために、こうした自作自演のパフォーマンスを行っている。

3月半ばに戒厳令が発令されるきっかけとなった、数件の中国系工場への放火事件も動機は同じだ。国軍は市民の暴動を抑えるために、戒厳令を発し、国軍が全権を握ることにしたのだ。実際には、国軍が全権を握るためには、戒厳令を発する状況を作る必要があり、それを目的として、国軍が中国系工場へ放火したのだ。工場への放火は、ツィッターで写真が流通し、軍の仕業だということが確定的であるが、今回の商業施設への放火は、夜間のインターネット接続遮断と、モバイル通信の完全遮断により、犯人を特定されていない。国軍の行いは、極悪非道というほかない。

この事件で思い出したのが、太平洋戦争に入る前の日本陸軍が起こした1928年の張作霖爆殺事件と1931年の柳条湖事件の2つの事件だ。どちらも中国側の仕業だと発表するために、日本軍が自ら起こした。張作霖爆殺事件は、1928年6月満州の実験者である軍閥張作霖が乗った列車を爆破し、彼を殺害した事件だ。その後日本陸軍は、張作霖爆殺事件を中国国民政府側の仕業だと公表したが、国際的に疑惑を持たれた。さらに張作霖の子の張学良は、中国国民政府に忠誠を示し、中国側の抗日気運が一段と高まった。満州における日本の権益を強めようとしたが、却って国際的孤立と中国の反日感情を煽った日本の愚策だ。これに懲りず、1931年9月、瀋陽郊外の柳条湖で満州鉄道の線路を爆破する事件を起こした。日本陸軍はこの柳条湖事件を中国側の仕業と発表して、ただちに軍事行動を起こし、長春ハルビンチチハルなど次々と満州の主要都市を占領した。これが満州事変で、その後日本は国際連盟から脱退し、アメリカ・英国などの列強国の反発のなかで国際的に孤立していき、太平洋戦争へ突入し、敗戦という結末に至る。嘘や偽りは、どんなに取り繕っても、いずれ露見するものだ。露見せずとも、疑惑を持たれれば、不利になることは間違いない。ミャンマー国軍政府の嘘と偽りは、いずれ大きな代償となるはずだ。

太平洋戦争の初期に、ビルマは英国の植民地支配から独立するために、日本軍の協力を得た経緯がある。その当時ビルマ軍は、日本軍から軍務に関することを多く学んだようだ。だからといって、日本軍が行った愚行までマネする必要はない。